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裏庭~梨木 香歩・著 新潮文庫 を読んで [書棚からの言葉]

書棚からの言葉シリーズが続いています・・・(笑)

「裏庭」は数年前に買ってずっと手元に置いてある本です。
どうしてか、久しぶりに読み返したくなりました。

このおはなしは、すでに人が住まなくなって久しいバーンズ屋敷に
代々伝わる「裏庭」に通じる異世界を主人公・照美が魂の冒険をする物語です。
その数々の冒険は、読む側の心に迫ってくるもので、照美の心の痛みは
そのまま、読み手の心への問いかけとなっていきます。

照美がひとつひとつを乗り越えて進んでいく先に、照美の両親、亡くなった
双子の弟の純、バーンズ屋敷に住んでいた姉妹のレイチェルとレベッカ、
その友人の丈治と夏夜、妙など、大人たちの心の世界が幾重にも紡がれていきます。
その描写の見事さと、繊細さにどんどん物語に引き込まれていきました。

裏庭は決して簡単に読める物語ではなく、ひとつひとつにじっくりと向き合い、
その言葉の意味を感じながらゆっくりと読み進めました。
時には心が痛むシーンもあり、エネルギーが必要なときもあります。
それでも、最後まで読み終わった後は、なんともいえなく胸がいっぱいになります。
照美と一緒にひとつの冒険をやり終えたような、ほっとしたような安堵感・・・
なんだかじ~んと心が癒されたように思えるのです。


「裏庭」を読むときには、気軽に手に取る感覚ではなく、「さあ、読むぞ・・・」
というちょっとした気合のようなものを持って読み始めます。
何度も何度も読み返してしまうのは、その時々の自分の状況によって、物語から
感じ取れる世界観、意味合いが毎回違ってくるからです。
書いてある文章は同じなのに、毎回気づきがあります。
物語から発せられるメッセージが、私にとって必要な部分が、鮮やかに浮かんできます。

「何か」を見つけたいとき、私は照美と一緒に「裏庭」を旅します。
そして、自分にとっての「裏庭」とはなんだろうと考えるのです。

今回、本書の中で心に残った言葉をしるしてみたいと思います。

レイチェルがマーサと話しているシーンです。

「養子たちとは言え、あなたと私はいい家庭(ホーム)を
 作ってきましたね。」


「日本ではねえ、マーサ。家庭って、家の庭って書くんだよ。
 フラット暮らしの庭のない家でも、日本の家庭にはそれぞれ、
 その名の中に庭を持っている。
 さしずめ、その家の主婦が庭師ってとこかねえ。」

「なるほどねえ・・・庭は植物の一つ一つが造る、生活は家族の
 一人一人が造るってことですかねえ。深い、重みのあることばです。」





物語の中では、照美の家族、照美の母の家族、レイチェルとレベッカの家族・・
様々な家族の絆が問われていきます。
人が生まれて、一番最初に人間関係を築いていくのが家庭です。
ですが、この家族、家庭というのが一番難しいのかもしれません。

家庭の中で心の傷を負った照美、母との関係で葛藤がある照美の母、そして
レイチェルとレベッカのそれぞれも家庭の中で心に傷を負っています。
物語の中でそれをなぞりながら、みんなはそれぞれ、自分の「裏庭」を探す
旅をしていきます。

家族がいて一緒に暮らしていても、たとえ一人暮らしでも、みんな、心に
自分の「裏庭」を持っていて、それをはぐくんでいくのは、庭師である
自分なのだと、物語を読んでいて思うのです。

庭師が手入れを怠ったり、下草や木々の枝を生え放題にしたら、庭は
少しずつ荒れていきます。
心もおんなじで、水と肥料をあげて、光が届くように枝を整えてあげる。
すると、そこに訪れる虫や鳥たちが生き生きと楽しそうにしてくれる。
心をかけた分だけ、庭は輝き、豊かになってゆきます。

でも、時として古くなって倒れた木から新たな芽吹きがあります。


/ ethermoon


自分の心も庭のように育てていければいい。

その「裏庭」は、いつしか外のもっと広い世界へ、
他の「裏庭」とつながっていく場所だから・・・

(写真はおかりしたものです。)



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